2024/03/05 15:32

先日更新した記事で、我が家に新たに子どもが産まれたことを記した。
⇒「こどもが増えました」https://kyugakusha.base.shop/blog/2024/02/14/150839

一方で、先日の厚生省の発表によれば、過去1年間の出生数が75万人となり、過去最低を記録したとされる。
8年連続の減少となり、少子化の歯止めはかからない一方である。婚姻数も50万組を切った。

NHK『去年の出生数75万人余で過去最少を更新 「今後さらに減少か」』

そんな中、3月2日にXに投稿されたポストが賛否を呼んでいる。
そのポストがこちら↓

稲葉可奈子🐾産婦人科医@kana_in_a_bar
わざわざ言うことでもないんですが、こんな記事見かけたので、、
子どもってほんまにめっちゃかわいいし、子どもおるとめっちゃ楽しいよ、、、!!!!
「子ども、ほしくない」半数超 ロート製薬調査、4年目で初
https://nordot.app/1136202234232341397?c=113147194022725109
https://x.com/kana_in_a_bar/status/1763838001782854038?s=20 (2024年3月2日ポスト)

このポストは、ロート製薬による妊活に対する意識調査の結果についての報道に対してコメントを寄せたものだ。
その報道がこちら↓

共同通信『子ども、ほしくない」半数超 ロート製薬調査、4年目で初』
ロート製薬は1日、妊活に対する意識調査「妊活白書」2023年度版を公表した。18~29歳の未婚男女400人のうち「将来、子どもをほしくない」と回答した割合は55.2%に上った。・・・男女別では、男性が59.0%で6割に迫り、女性は51.1%だった。初回の20年度調査で子どもがほしくないと回答した男女の割合は44.0%だったが、ここ3年で11ポイント超上昇した。

未婚の男女を対象に調査を行っているので、18~29歳の全体像を表しているわけではないが、「将来、子どもをほしくない」という意識が高まっていることがわかる調査結果となった。

例の稲葉氏のポストに対して寄せられた多くの批判コメントは様々だ。
「自分は可愛いと思わない」とか「子どもの幸せより自分の幸せを優先してそう」など正直に言うと一考に値しないものも多い。理由は、彼女のポストに対する「反応」でしかないからだ。そういう反応しかできないことについては一考の価値があるかもしれないが、今は主題ではないので脇へ置いておく。
一方で、「子どものためを思うと子どもは産めない(産まない)」という趣旨のコメントも多く、こちらは考えなければならない問題であろう。なぜなら、ここには個人の幸福とは別は「この社会」という視点があるからである。個人が「子どもを産んでも安心」できるために社会は何を用意できるのかという問題だからである。

もちろん、稲葉氏もある調査結果に対して「反応」したに過ぎないが、彼女の過去のポストの内容やそこからわかる仕事を垣間見るに、社会における女性や子どもにまつわる問題に関して何も考えていないわけではない。むしろ、その他大勢よりも深く、問題意識を持って活動しているように見える。あえて擁護するように語るなら、子どもを産み育てることは「個人の幸福」にとっていいことなんだよ、というメッセージを投げかけたかったのだと思う。ただ、「子どものことを思うと」という人にとっては見てる方向が違うというところで食い違いが起きたのだと思う。
私自身は、子どもを産む前から「子どもは可愛いと思わないし、子どもと一緒にいても楽しいと思えない」という人は無理して子どもを産む必要はないと思うし、それこそ子どもにとってもよくないと思う。そういう意味では、「子どもは可愛くて、一緒にいると楽しい」と思ってもらいたいという稲葉氏の気持ちはとてもよくわかる。

もちろん、コメントにあるように、金銭的な不安や、「自分が毒親に育てられたからうまくできるだろうか」「(こどもが女の子だとして)性暴力から守ってあげられるだろうか」「育児のストレスに耐えられるだろうか」「夫はモラハラしてこないだろうか」など、この社会は多くの問題を抱えている。「こんな社会で子育てなんて」と考えることは全うなことでもある。

子どもを産まないと社会に宣言した人もいる。


朝日新聞「子どもを産みません」 18歳、宣言は自然を守るため
リムさんは9月16日、政府が環境危機対策にしっかり取り組み、安全な未来を約束するまで、子どもをつくらないよう呼びかけるキャンペーン「#NoFutureNoChildren(未来がなければ子どももいない)」を立ち上げた。・・・世界の平均気温が産業革命前に比べて1・5度上昇する可能性があると推測される2030年、リムさんは29歳になる。「ちょうど子どもを産む時期。でも、きれいな空気やきれいな水が保障されず、安全と言えない世界では、私は子どもは産めない」

彼女は地球環境が悪化に対して政府が動かなければ子どもは産まないと宣言した。
彼女の世界に対する宣言は、X上の稲葉氏への批判と重なる。

これらと似た考えに反出生主義という思想がある。

『反出生主義とは、子どもを生むことは悪いことだと主張する特異な哲学・倫理学上の立場で、ここ十数年、南アフリカの哲学者デヴィッド・ベネターが精力的に展開したことで注目を集めている。ベネターの主張の要点はこういうことだ。――人間にとって、生まれて存在することは本質的に苦痛であり、誰も生まれない方が望ましい。すでに生まれてしまった人を殺す必要はないが、これから生むことは避けるべきである。』(加藤2019)

この思想の注意点としては、この思想は世の中から苦しみをなくすにはどうすればよいかという思想であり、すでに今を生きる人が死ねばよいというわけではないし、妊娠出産・子育てに苦しむ人を攻撃するときにこの思想を持ち出す人は、この思想に反しているということである。

この思想は、「人間は生まれてくるべきではなかった」という考えと「これから人間は生まれてくるべきではない」という二つからなる。

では、稲葉氏のポストに多く寄せられた批判コメントは反出生主義なのだろうか。
もちろん中には、反出生主義者もいるかもしれないが、多くの人は、「こんな社会」を憂い、無邪気な稲葉氏を批判したいという感情だったのではないだろうか。

人生には、生まれながらに苦しみが存在する。自分のこの苦しみも生まれてこなければ存在しなかった。
子どももおそらく苦しみを味わうことになるだろう。ならば、子どもも生まれるべきではない。

。。。このような反出生主義に共感はしても、一方で女性の産む権利を否定する人は少ないように思う。
反出生主義は究極的には、女性の産む権利も否定する。

故に、論点は別なところにある。
目指されるべきは、「この社会を生きるために発生する苦しみを少なくすること」なはずである。
そして「生まれてきてよかった」と思える人を一人でも多く増やすことではないだろうか。

私は、反出生主義を知っていてなお、父親になることを選んだ。妻とも子どもが欲しいと言って子どもを育てている。
私たちにとってはこれは幸福なことで、これは誰にも否定される筋合いはない。
子どもが幸せになる保障はない。おそらく様々な苦しみに直面するだろう。しかし、それでこそ人間でもある。
だからこそ、この社会がよりよくなるように私は力を尽くしたい。

親のエゴ、無責任なのかもしれないが、別な責任の取り方をしたい。

参考

加藤秀一「なぜ私を産んだ!」親や医師を訴えるロングフル・ライフ訴訟とは何か

https://gendai.media/articles/-/63516?imp=0 (2019年3月21日)

YOUTUBE 『【反出生主義】「生まれない方が幸せ」ヒトの誕生や出産を否定する思想とは?子どもを持つのは親のエゴ?支持する男性と考える人生の苦痛・苦しみ【EXIT】』

https://www.youtube.com/watch?v=vla0eoMQ4GY (2021年5月29日)